牛の体重当てコンテストとエニグマコード 2015.12.28

早いもので今日が今年最後の就業日となりました。いろいろな出来事がありましたが、「世界」で「日本」で「会社」で印象に残った事をざっと振り返ってみます。

パリの同時多発テロでは、130人が亡くなり300人以上が負傷しました。過激派組織「イスラム国」にまつわる事件では、日本人ジャーナリストが犠牲になったのも今年初めの出来事でした。

今年を漢字一文字で表す恒例のイベントでは安全の「安」が選ばれたそうです。これは、集団的自衛権の限定的な行使を認める「安全保障関連法」が成立し、「安保」が話題になった影響とされています。

今年流行語になった言葉に「爆買い」という言葉もありました。今年、中国の人々が日本に旅行で来て消費したお金は1兆円以上だそうです。

年末になって「ノーベル賞受賞」のニュースは嬉しい話題でした。梶田氏は、あらゆる物質を構成する素粒子のひとつ、ニュートリノに質量があることを示す「ニュートリノ振動」を発見したことで「物理学賞」を受賞されました。

大村教授は、土の中に有益な細菌を見つけ、その「菌」が抗生物質を生み出すことを発見しアメリカの製薬会社と薬を開発しました。目が見えなくなる病気の特効薬として、アフリカで毎年約3億人を感染の危険から救っているそうで、それらの功績に対して「医学・生理学賞」が贈られました。

この特効薬、メルク社がWHOを通じて蔓延地に無償で配布しているそうですが、これは大村教授が特許ロイヤリティーの取得を放棄して無償で配布することに賛同したために実現したものだそうです。

大村教授は、この薬の特許ロイヤリティーは放棄していますが、その他にも薬の開発を成功させており、関連の特許料は250億円もあったそうです。でも感心するのは、そのほとんどのお金を北里研究所の運営資金や、病院建設、美術館を寄付という形で使われているという事です。スケールが大きすぎて、私の理解の範囲を超えています。

会社での出来事としては6月に新工場が操業を開始しました。9月には、おおきなイベントとして技術講演会がお客様、大学の先生をお招きして開催され、盛況のうちに終える事ができました。また、工場関連では機械工場が改装され、事務棟は空調機とトイレの改修工事が行われました。

私自身の出来事としては、結構ハードな一年でした。納めた装置が破損し、装置ごと工場に戻して修理したり、別の物件では装置からオイル漏れが生じ、最初は原因が特定できず社内で実験や分析を行った結果やっと原因を特定し、対策とオーバーホールを実施したりと、いろいろあった一年でした。

私の家庭での出来事としては、バーベキューセットを買ってきて、外で数回食事をしました。ゴールデンウイークや夏休みには、このバーベキューセットを車に積んでキャンプ場に出かけロッジに泊まったのが良い思い出になりました。次回は、テントでのキャンプに挑戦したいのですが、長女は虫が大嫌いなので、ハードルは高いと思っています。

今年を振り返る話はこれぐらいにして、今日は「多様性」について2つ例を挙げてお話します。

その昔イギリスの片田舎で開催された「雄牛の重量当てコンテスト」の話です。このコンテストは、6ペンス、約10円を払って雄牛の体重を予想し、もっとも正解に近い参加者が景品をもらえるというものでした。

約800人の参加者の中には食肉関係者や牧場関係者もいましたが、ほとんどが興味本位の素人で、彼らは当てずっぽうでいい加減な数字を書き込んで投票していました。

このコンテストに興味をもった統計学者が、主催者から参加者チケットを譲り受け、統計的に調べてみました。すると雄牛の体重543.4kgに対して、参加者の予想の平均値は542.95kgつまりほとんどぴったり、正解と450gしか差がないことがわかりました。

この現象は次のように考えられています。素人はそもそも雄牛の体重のことなど何も知らないので、その予想はとてつもなく軽かったり、例えば100kgとか、とんでもなく重かったり、例えば1tonとか書かれていたとします。

しかし、こうした予想は相殺し合いますから、最終的にはゼロになって結果的にはなんの影響も及ぼさない。そうなれば予想の平均は、専門家の正解に自然に近づいていったと考えられます。

「みんなの意見は案外正しい」というこの不思議な出来事は、容器に入っている「ゼリービーンズ」そら豆型をした砂糖菓子の事です。この数を当てる実験等でも確認されています。

2つ目の例ですが、第二次世界対戦において、ドイツ海軍は高度な暗号システム「エニグマコード」を使って広範囲の軍事作戦を展開し、月平均60隻の補給船を撃沈していました。

この暗号を解読するためにイギリスを中心とした連合軍は、少数の暗号専門家によるチームをつくるのではなく、アメリカ・ポーランド・オーストリアを含め、なんと1万2千人ものスタッフを集めました。

その中には、数学者や技術者、暗号学者のほかに、言語の専門家、倫理学者、古典学者、古代史学者、さらにはクロスワードの達人までいたといわれています。

なぜこのような奇妙な集団に未来を託したのか、その理由は、優秀な数学者たちは数学的な暗号なら解読できるかもしれませんが、暗号化のキーにドイツの古典文学が使われていたらそこで頓挫してしまいます。

このようなリスクを避けるためには、いろいろなことを知っているひとたちを大量に集める必要があったようです。この多様な集団は、エニグマコードを解読して大きな成果を上げました。異なる価値観を組み合わせることが、解読不可能と思われた暗号を解読するという「奇跡」を生んだ例と言えます。

多様性の例を2つ挙げてみました。ちょうど昨日の新聞に一人当たりのGPDが1993年に日本は3位だったのが、21世紀に入って下がり続けていて、昨年は20位だったという記事がありました。

円安の影響はあるものの、やはり寂しいですね。私が思うに、日本の社会や企業の復活のキーワードは、「価値観の多様性」ではないかと思っています。実際はデモやネットで公然とヘイトスピーチがされたりと、逆の方向に向かっているような気がしますが。

多様化で成功している地域といえば、シリコンバレーが挙げられます。もちろんアメリカのような移民社会は、人種や宗教、文化的に異なる人々が集まれば何かと軋轢とか問題は生じるとは思います。しかし、うまく設計された社会や組織は、その問題、コストをはるかに上回る恩恵を受けることができるのだと思います。

別の言葉で表現すると、同じバックグラウンドの人たちが集まるよりも、価値観の違うひとたちが共通の目標に向かって協力したほうがずっとイノベーションを起こしやすいとも言えます。

サッカーの世界的トップリーグで例えると、多様性を求めて各国から人を集めたわけではなく、強いチームは一流のプレーヤーが各国から集ってくるので結果的に多様性であるといえます。

最後に、今日話した事をまとめますと、まず、この一年を振り返りました。次に、「雄牛の体重当てコンテスト」や「エニグマコード暗号解読」を例に多様性について話してみました。

話は以上ですが、今日は年末大掃除で、高いところを拭いたり、脚立に足をかけたりと、普段とは違った作業をする方も多くいらっしゃると思います。くれぐれも事故、けがのないように作業を行ってください。

ご清聴ありがとうございました。

以上