フロントローディング 2020.4.30

1.はじめに
新製品開発においては、開発初期段階での製品品質の作り込み(フロントローディング)が、以前にも増して重要になっている。できるだけ早いうちに問題点を洗い出してこれをつぶし、初期段階から設計品質を高めておこうというものである。以下にその活動項目を3つ挙げ、その活動を実効あるものにするために必要な留意点について以下に述べる。
2.コンカレント・エンジニアリング
実物の製品を形作る前段階から、設計部隊が、製造や試作などの設計以外の部門に対して、三次元CADのデータを早い段階で供出する。三次元CADは、仮想空間に3つの軸を用いた立体を描くことができるので、誰でも直感的に形状を把握できる。よって試作品が無い状況下においても設計部門以外でも検討が行える。つまり、設計部門以外の仕事を同時並行的に処理する手法である。
留意点は、その後工程からの情報を設計側にフィードバックすることである。それによって、設計の手戻りが減り、開発期間の短縮やコストダウンなどが実現できるといえる。
3.CAEの活用
CAEによるコンピューターシミュレーションを用いた解析を事前に実施する。三次元CADで描かれたモデルに想定される荷重等の数値を入れ、どの部位にどれほどの負荷がかかるかをシミュレーションできる。これにより、弱い部位を見つけ補強し、余分な部位を削る等、製品形状の最適化が可能になる。これはつまり品質検討業務の前倒しと言える。
留意点は、解析によって得られた解析値が妥当かどうかに注意する必要がある。解析によって得えられた値は、あくまでもシミュレーションによるものなので、本当に妥当な値かどうかははっきりしない。そのため「同様な実績がある解析結果と比較して想定する」、「解析結果を盛り込んだ内容で修正を行い、実機を試作して確認する」「解析の専門家の意見を聞く」等を行う必要がある。
4.DR(design review)デザインレビュー設計審査の実施
デザインレビュー(以下,DRとする)は、製品開発の節目で、設計の漏れやマイナス要因を前倒しするため、関連部門を交えた提案、審査を行う。また、参加者のもつ固有技術やこれまでの経験を踏まえた知識から、特にあってはならない設計上の問題の摘出を行う。加えてそのための議論を円滑にするために、信頼性解析の内容やその結果が用いられる。そのための資料として、FMEA(failure Mode and Effect Analysis)[故障モードとその影響の解析]やFTA(fault Tree Analysis)[故障の木解析]のような論理に基づく摘出型の解析結果を用意する。
留意点としては、「設計」に加えて「製造」「生産技術」「品質保証」「検査」の部門関係者が集まり、「議論する」ことが重要である。
以上
補足
フロントローディング
概念としては新しいものではない。コンカレント・エンジニアリングとともに3次元設計を進める狙いの一つとなっており、多くの企業が恒常的に取り組んでいる。コンカレント・エンジニアリングが、データを早くから供出することによって、製造や試作など設計以外の部門の仕事を同時並列的に処理しようとするものであるのに対し、フロントローディングはおおむね設計部門内での品質検討業務の前倒しといってよい。ただしコンカレント化が進めば、他部門からのフィードバックも早まるはずで、必然的にフロントローディングになる。従って両者は不可分の概念とも言える。
フロントローディングは、製品開発プロセスの上流段階で、下流までの課題を先行して検証し、後戻りを抑制するアプローチで、企画構想・設計段階でのシミュレーションによる事前検証などがポイントとなる。モノづくりの上流に位置する企画構想から設計までの段階は、その後のモノづくりの方針を決定する重要な工程であり、全ライフサイクルコストの80%がそこで決定づけられていると言われている。初期段階で判断を誤ると下流の製造工程で重大な問題を引き起こす可能性があり、これをフロントローディング設計によって食い止めることが肝心である。
またフロントローディングは単なる工程の前倒しや上流工程への作業シフトではない。生み出される連携の成果を上流の設計・開発プロセスに埋め込み、全体最適の実現を図っていくことである。
コンカレント・エンジニアリング(CE:Concurrent Engineering)
設計から製造までの業務に加えて、資材・経理・営業に至る業務を同時並行的に処理することで、開発期間の短縮やコストダウンなどを実現する手法。生産活動の下流で発生する問題(トラブル)を設計段階で把握できるため、やり直しコストの浪費や不要な検討時間の増大を抑制することができる。
以上