粉じん爆発 2020.8.22

1.はじめに
可燃性の固体微粒子が空気中に浮遊し、そこに発火源が存在した場合に、ある条件下で爆発燃焼する現象を粉じん爆発という。急激な発熱や空気膨張で、火炎と爆発音を発し大きな被害をもたらす。粉じん爆発が発生する条件等を説明する。
2.粉塵爆発が発生する条件
粉じん爆発は、粉体と酸素(空気)との接触面積が増大し酸化反応が促進されるために発生し、その発生には以下の3条件が挙げられる。
(1)粉じんの粒子が微粉の状態で、空気中に一定の濃度で浮遊(粉じん雲)
(2)発火源(エネルギー)の存在
(3)空気中の酸素
3.粉じん爆発を起こす粒子の大きさ
粉じんの粒子は細かいほど着火に必要なエネルギーが小さく、単位質量あたりの表面積が増え空気との接触面積が増加するほど、酸化速度が大きくなり爆発の危険性が増す。粉じん爆発を起こす微粉の大きさの限界は、0.1~100ミクロンと言われている。
4.発火点
可燃性の物質が空気や酸素と接触した状態で徐々に加熱されると、外部から直接火気を近づけなくても一定の温度に達すると発火する。この発火する最低温度を発火点といい、一般には酸素との親和力の大きい物質ほど発火点が低く、発火しやすい傾向がある。
5.爆発限界
粉じんが爆発するためには、空気中の粉じん濃度がある範囲内にあるときに、そこに発火源があれば爆発が起こる。その粉じん濃度の範囲の限界を、爆発限界または燃焼限界といい、爆発限界には、爆発下限界と爆発上限界との2つがある。例えば一個の粉塵粒子が、あるエネルギーにより空気中の酸素と反応して燃焼した場合、これが熱源となり隣の粉じんに次々に熱を反応させ連鎖的に燃焼を起こす。この場合、粉じん粒子の相互間距離はある値以下でなければならず、この単位体積あたりの最低数、最低濃度が爆発下限界になる。また粉じんの数が増加すると、粉じんの冷却作用で熱の連鎖的な反応が起こらなくなり、この濃度を爆発上限界といい、これら二つの限界の間を爆発範囲という。
6.粉じん爆発の発生する過程
(1)粉じん粒子の表面に熱エネルギーが与えられると表面温度が上昇
(2)粒子表面の分子が熱分解あるいは乾留作用を起こして気体となって粒子の周囲に放出
(3)この気体が空気と混合して爆発性の混合気体をつくり、発火して火炎発生
(4)この火炎により発生した熱は、さらに他の粉じん粒子の分解を促進し、次々連鎖的に可燃性の気体を放出させ空気と混合して発火、火炎と爆圧を伝播させる。そのために堆積粉じんの存在する箇所は全て粉じん爆発の被害を受ける。粒子の表面温度を上昇させる手段としては熱伝導だけでなく、遠くからの光や熱のような輻射電熱によっても発火することがあり、これはガス爆発と異なる点である。
7.粉じん爆発の一般的な発火源
(1)マッチ・ライター・たばこ等の裸火
(2)ベルトコンベア等のベルトのスリップなどによる摩擦熱
(3)機械のメタル・電気機器・ベルトの摩擦などによる加熱発火
(4)スイッチ・配線などの電気設備損傷によるスパーク花火
(5)粉砕機やロール機等への異物混入による衝撃花火
(6)コンベア等の機械局部摩擦による加熱発火
(7)溶接・溶断・ハンダ付等による花火
(8)静電気の放電花火
(9)サイロ内や工場内での自然発火
8.粉じん爆発の予防と対策
粉じん爆発を防ぐには、爆発物である粉じんの除去と発火源の排除を行う。粉じんが発生しないような設備設置および適切な管理が必要である。粉粒体を取り扱うプロセスにおいては、粉じん爆発の被害を最小限に抑えるため下記のような装置、設備を施工する例がある。
8.1)爆発放散口
爆発が発生する恐れのある装置、ダクトなどに意図的に弱い部分を設け爆発が生じたときに圧力や高温の燃焼生成物を安全に大気中に放散させ、装置を破壊から護る爆発防護設計である。
8.2)爆発抑制
装置内で発生した爆発の圧力波を初期段階で検知し、粉末状の消火・抑制剤を高速で噴霧して燃焼を抑制し爆発の進行を阻止する技術である。
8.3)爆発遮断
発生した爆発が配管やダクト内を伝播し接続された装置の破壊や人災を防止することにある。配管上に設置して機械的に遮断する方式と、消火・抑制剤を使用する化学的な遮断などがある。
8.4)耐爆発圧力衝撃構造
大気中に放出できない毒性・人体に悪影響を及ぼす高活性の粉塵やガスを取り扱う装置内で万一爆発が発生しても、大気中に放出しないように最大爆発圧力に耐えるよう計画・設計するものである。
8.5)火花検知・消火
粉体空気搬送ダクトなどに設置した検知器により、熱または近赤外光を検知することで、粉じん爆発・火災の原因となる火花、高温粒子を検出し、検知器の下流側に設置した消火ユニットでこれらを消火・除去して、爆発や火災の発生を予防する技術である。
9.粉じん爆発防止のポイント
燃焼の三要素である可燃物、空気、点火源のいずれかを除去する必要がある。
除去できない場合、 加湿や粒度を変更して着火しにくくすることは可能である。
空気の除去として、窒素やアルゴン置換が有効である。
適切な静電気除去が効果的である。
爆発の起こしやすさの目安となる、爆発限界濃度・発火温度・最小着火エネルギー・限界酸素濃度を評価し、爆発予防対策に活用する。
粉じん爆発は 破壊力が大きく、死亡災害に繋がることの多い危険な爆発現象である。しかし粉体は 可燃性物質や、可燃性ガスなどのように簡単に火がつくことはなく、消防法など安全法規で規制される物質はほとんどない。そのため粉体を取り扱う人達にもその危険性が認識されていないことが多い。
10.まとめ
粉粒体技術は、たくさんのハザードやアクシデントと隣り合わせである。中でも重要項目は、作業者の健康問題と粉じん爆発である。粉じん爆発を完全に防止することは至難だが、万一起こったときに災害を最小限に抑制するための手段は数多い。事故防止のために装置への配慮が必要なこことは言うまでもないが、装置を扱う人間に起因する要素への配慮や対応「ヒューマンファクター工学」、危険性の予測や対策を扱う「リスクマネジメント」はそれ以上に重要である。それらを総合的に検討し「まさか」や「想定外」で逃げることがないための配慮「フェールセーフ」の考え方を身に付けることが大切である。
補足
最大爆発圧力Pa(数値が大きいほど危険)
密閉容器内で最適粉じん濃度における爆発圧力の最大値
Kstと供に放散口の開口面積の計算に用いる
最小点火エネルギーmJ(数値が小さい程危険)
最適粉じん濃度において着火・爆発する発火(着火・点火)エネルギーの最小値
爆発指数(Kst)bar・m/s (数値が大きい程爆発が激しく危険)
容器1m3の基準爆発容器における最大爆発圧力上昇速度に相当する値
放散口の開口面積の計算に用いる
式Kst=(dp/dt)max・V1/3(dp/dt)maxは試験装置での最大爆発圧力上昇速度(bar・m/s)Vは試験装置容積(m3)
爆発のし易さ:爆発下限濃度と爆発限界酸素濃度
着火のし易さ:最小着火エネルギーと最小着火(発火)温度
爆発の激しさ:最大爆発圧力と最大爆発圧力上昇温度(爆発指数)
以上