技術の伝承 2020.7.5

1.はじめに
機械設計の観点から、技術的知識の伝承を進めるためにどのような取り組みが可能か、設計時に必要な明文化されていない技術的知識として3つを挙げ、これらを設計プロセスでどのように活用するのかを述べる。また、それぞれの技術的知識を伝承するための課題とその解決策を述べる。
2.技術伝承の取り組み
経験に基づく技能は、得てして文書化されておらず、先輩(上司)から後輩(部下)へと実務を通して伝えられていく。いわゆる「暗黙知」である。この技術伝承の取り組みを、いかにスピーディーに、継続的に、正確に実施していくかが重要である。
3.明文化されていない技術的知識1:五感に頼る部分
粉体処理装置を設計する場合、設計者はその粉体の性質を熟知していなければならない。水分値、嵩密度、安息角、温度、色、粒度分布等は数値で知ることができるが、装置に供給された際の粉体の挙動、付着性、装置の振動、騒音等は実際に「見て」、「聴いて」、「触る」、など人の感覚に頼る部分が存在する。
3.1課題
これらは粉体処理実験に参加するなど、ある程度経験を積まないと習得できない。つまり習得に時間がかかる点が課題といえる。
3.2解決策
しかしながら粉体処理装置を設計する際のポイントはある。下記の要所を押さえた上で実験や設計を実施する事で「暗黙知」を見える化、つまり「形式知」に近づけることが可能と考える。
粉体処理装置を設計する際のキャッチワード
「詰まる、くっつく、摩耗する。漏れる、流れる、飛んでゆく。蓄熱、発火、粉塵爆発」
4.明文化されていない技術的知識2:設計ノウハウの吸収方法
これらが明文化されていれば、若手は最小限の努力で設計ノウハウを吸収することができる。経験を積めば吸収できるのであろうが、経験を積む時間を短縮することでききれば、その組織は強くなれるといえる。
4.1課題
課題は経験さえ積めば、誰でもノウハウを継承できると勘違いされている点である。経験がない作業では、ベテラン者の行っていることを継承者は理解できない。習得に時間が掛かり、習得そのものを諦めてしまうケースもある。つまり、ベテランから若手への一足飛びの伝承は難しいのである。
4.2解決策
中堅社員でワンクッションするなど、段階的な伝承が必要となる。また、組織構造(年齢・人員構成)を踏まえて、いつまでにどのようなことをどのようにして伝承するのかを明確にしておくことが重要である。
5.明文化されていない技術的知識3:問題解決の方法
問題が発生した際にどのように対処すれば、最短で無駄なく解決できるのかが明文化されていない。これらのノウハウは、経験者から事例を集め、新しく問題が発生した際に、文書化・データ化・マニュアル化を進める事が重要である。
5.1課題
得てしてこれらのノウハウは熟練者の頭にしかない場合が多い。問題解決には時間やコストの制約のため必死で問題解決に取り組むが、解決した後にこれらの情報を次世代に残す重要性を認識していなければ、その時点で技術継承は途切れてしまう。
5.2解決策
口頭で関係者に説明、関係者に講義を行い、内容は文書化する。そしてこの失敗事例(トラブル、手直し)を電子化し、誰でも参照、検索できるようにする。これによって次世代であっても同じ間違いを繰り返さず、基本的に誰にでもその方法に則り問題を最短で解決できると期待できる。また、これらは個人で取り組むのではなく、部署または全社で取組む必要がある。
以上