福祉機器のデザイン 2020.5.13

はじめに

 日本は高齢化が急速に進んでおり、福祉機器の重要性は増すばかりである。福祉機器を設計する際に重要なキーワードや概念を述べる。

1.バリアフリーデザイン

 元は建築などの段差をなくするデザインという意味だが、障害を持った人の日常生活の妨げになる物的、社会的な障壁をなくそうとする考え方に概念が広がって使われている。

2.ユニバーサルデザイン

 バリアフリーデザインの考え方をさらに広げて、障害者だけでなく、いわゆる健常者まで含めてすべての人にとって望ましいデザインを、ということで「ユニバーサルデザイン」という考え方が提唱された。そして今日、医療や福祉さらに一般生活の分野ではユニバーサルデザインの考え方が普及してきている。

 ユニバーサルデザインとは、アメリカのロナルド・メイスが「できるだけ多くの人が利用可能であるようなデザインにすること」を目標に1980年代に提唱した概念で、以下の7つの原則にまとめられている。

  • 公平な利用
  • 利用における柔軟性
  • 単純で直感的な利用
  • 認知できる情報
  • 失敗に対する寛大さ
  • 少ない身体的な努力
  • 接近や利用しやすいサイズと空間

 ユニバーサルデザインの事例としてライターがある。ライターは片手で火をつける道具である。ライター以前の着火道具はマッチである。マッチで着火するには両手が要る。第1次世界大戦の後、片手を失った元軍人にために開発されたライターは、両手が自由な人にも便利な道具として広く使われるようになった。

3.フィッティングデザイン

 心身機能が不自由な人の日常動作には個人差がある。自助具は、そうした個人差に合わせて汎用的な福祉用具を改良したものが多い。このようなカスタマイズしたデザインを「フィッティングデザイン」という。個人差のなかには、身体機能に加え趣味嗜好も含まれる。福祉用具は、往々にすて人の感性面を考慮しきれないものが多い。フィッティングデザインには感性面も重要な要素となる。眼鏡は視覚機能を補正する一種の福祉用具である。眼鏡を使う人は、視覚補正に加えファッション感覚で選んでいる。フィッティングデザインの好例といえる。

4.自助具

 福祉用具の基本となるものとして自助具がある。自助具とは、高齢者や障害を持った人が自分の身の回り動作を、できるだけ楽に自立してできるように工夫や改良が加えられた「生活を補助する道具」である。とかく、こうした人たちは他人に助けられることで日常生活の自立性を失い、さらに生きる尊厳も失ってしまうことがある。できるだけ自立を助けることが福祉用具の原点になる。

5.メディカルデザイン

 複雑化する医療の安全性や患者の心の負担を軽減する医療分野の人間化をめざすデザインとしてメディカルデザインという言葉が一般化してきている。好例として、テルモ(株)の先端太さ0.2mmインスリン注射針ナノパスがある。

6.医療・福祉ロボット

 近年、医療・福祉の分野でのロボット開発が進んできている。医療ロボットは、手術や検査などの特定化された場面で使われる。それに対して福祉ロボットは、「高齢者や障害者の自立を支援」、「単身高齢者などの見まもりや癒し」「介護する人の作業負荷軽減支援」といった目的を持っている。そして家庭や屋外などさまざまな場面での自立支援や介護支援などに使われ、ある程度の汎用性が求められ、医療に分野の実績にくらべ、まだこれからの分野である。

しかしこうした機器のメーカーは介護の現場のニーズをよく知っているとは言えない。また介護の現場はどのような機器があるのかを知らないというミスマッチの状況がある。

7.インクルーシブデザイン

 医療機器などには患者、医師、看護師など複数の使い手、さらに管理者がかかわっている。福祉用具・福祉機器も同様である。この複数の使い手や管理者に要求をどう調整し解答を出していくかが肝要である。近年、使い手も含めてものづくり、デザインをしていくインクルーシブデザインということが提唱されている。ものづくりの上流すなわち開発に対する方向性やデザインのコンセプトを検討する段階に、高齢者や不自由な心身機能を持った人たちなどのマイノリティーユーザーを大多数のユーザーに先行しているリードユーザーとして開発プロセスに入ってもらいながら進める開発手法を「インクルーシブデザイン」という。誰でもが使いやすいものづくりということでは、ユニバーサルデザインともいえるが、個別の障害を持った人に寄り添ってものづくりをするという点ではフィッティングデザインに考え方が近い。

 一般に製品開発において、開発する側はその製品のユーザー像を調査などしてのイメージ(創造)でしか捉えていない。多くのユーザーデータではなく、特定ユーザー個人の視点から製品などに対する具体的な要望や気づきを発想の原点とすることで、より独創的なものづくりを進めることができる手法としてインクルーシブデザインが着目されている。とりわけ福祉用具のデザインには有効な手法といえる。                                  

以上