「仕組み」と「ミス撲滅運動」 2013.11.5

エコバッグキャンペーンを実施している、あるスーパーの話をします。
スーパーのレジ袋が不要な人には、会計のときの代金から2円引く、エコバッグキャンペーンをしているスーパーがあります。しかし、エコバッグを持参しているのは、ごく少数で大半の人は当然のようにレジ袋を使っています。わずか2円を節約するために、特別な事はしたくないというのが大多数の心理と思われます。
しかし、ある時期からレジに並んでいるほとんどの人がエコバッグ持参していました。何を変えたかというと、レジの手前に袋を置いて、必要な人は自分で買い物カゴに入れるシステムにしたことです。会計のときはレジ袋1枚につき2円が加算されます。
「2円得する」ことにまったく興味のなかったひとが、「2円損する」と気づいたとたん、行動が変わってしまうのです。
ヒトが得より損に敏感に反応する感情、習性をうまく利用した例です。
他の例として、臓器提供の希望者数、ドナー登録者の割合があります。
日本では2009年に臓器移植法が成立しましたが、臓器提供の希望者は全国で40万人程度、18歳から54歳まので登録対象年齢人口に対する割合は0.7%、そのため臓器移植が必要なひとが手術を受けられず、他国で臓器を購入することが国際問題になっています。
欧米におけるドナー登録者の割合のグラフが以下の表です。

国によって、これほどまでに差が生じています。この違いは文化や教育の差では説明できません。なぜかというと、独とオーストリアは民族も言語も文化もわりと似ているからです。
それでは何が違うのかというと、初期設定の差です。日本と同様に、臓器提供を希望する人がドナーに登録する方式にしたのがドナー登録の少ない国です。
臓器提供をしたくない人が登録名簿から名前を外す方式にしたのが、ドナー登録の多い国です。
どちらも本人の意思が尊重されているのは同じです。それでも結果に大きな違いが生じるのは、私達が無意識のうちに「初期設定を変えない」という選択をしているからです。要は変更するのは面倒なのです。
日本もこの方式に変えれば、臓器提供の問題は、たちまちのうちに解決する可能性があります。
これらの話を知って頭に浮かんだのは、各職場で取り組んでいるミス撲滅運動の取り組みです。
エンジ部の例としては、設計のチェックリストを作ったり、検図の方法を改良したりと、いろいろ手は打っています。しかしながらミスの原因を追求した結果よく聞くのが、次回から気をつけますとか、気をつけて検図しますという言葉です。
この段階では、真の原因にまだ、たどり着いていないのです。間違ったにしても、知っていて間違ったのか、知らなくて間違ったのか、知らなかったのなら教えていないのが悪いという事になります。
このようなミスの原因探しをやり始めると、ついついというか、どうしても、個人の能力や問題に収束する傾向があります。実際私が原因究明する際もそういう「個人の能力、問題」になった事が何回もあります。
雑誌で読んだトヨタの記事でこのようなのがありました。「人を責めるな。しくみを責めろ」それを基本姿勢として繰り返し口にしているそうです。
難しいのは、ミスや失敗を恐れてチャレンジしなくなる方が、長い目で見ると成長が止まって損失につながる恐れがあるということです。ミスするな、と言っているリーダーや上司自身も、若かりし頃、散々ミスしているのです。
最後になりますけれど、今回言いたかったことをまとめると、ミス撲滅運動というのは一筋縄ではいかないし、これさえすれば全て解決という策があるわけでもありません。
ミスの原因は、個人の能力や問題に収束する傾向にありますが、安易に決め付けないこと。先に話した「エコバッグキャンペーン」や「国別ドナー登録者の割合」のようにシステム・仕組みを変えることで解決策が見つかるかもしれません。
ミスや失敗を恐れすぎて、新しい事にチャレンジしない事は、成長の芽を折ってしまう可能性があるので注意が必要、ということです。
以上になります。それでは、今週も張り切って一週間を過ごしましょう。
参考文献:橘玲「不愉快なことには理由がある」(集英社)