秘書と美女 2005.3.7

大学生の時、いくつかアルバイトを経験したが、その一つに運送会社での「荷物の仕分け」があった。荷物を地区ごとに分け、各トラックに積みやすいように並べるのが私の仕事であった。朝6時から2時間だけの仕事であったが、時給が良かったので選んだ。週6日で1年半ほど続いていた。
ある日、直属の上司にあたる主任が会社を辞め、新しい主任がやってきた。見た目40代前半、中肉中背の真面目そうな男性である。他の社員の話によると、新しい主任は以前、議員秘書の仕事をしていたそうだ。私が知らされていた新しい主任の個人情報はそれだけだった。
数日後、その新しい主任と雑談する機会があった。話の途中で「主任は以前、秘書をされていたのですね」と尋ねたところ、急によそよそしく、「そ…そうだけど、でもどうして美女だったことを知っているの?」聞かれた。意味が分からないので、「ビジョではなくヒショ、秘書ですよ。主任」「あー、秘書ね。だいぶ前だけど秘書をしていたよ」と会話は続いた。美女のことは触れない方が良いと判断して、別の話題に移った。
それから一週間後、その主任に呼ばれ、業績が厳しいためアルバイトを雇えなくなったと告げられた。主任は深刻な顔をしていたので、私は笑って「そうですか。私はここを辞めても別に生活に困るわけでもないので、主任、あまり気にしないでください」と言ってその職場を去った。
業績が悪いのだから仕方ない。決して主任の私情では無く、ましてや主任の秘密を知ってしまったからではないのだ、と自分に言い聞かせた。
別に主任が美女だったとしても、そのような事を面白がって吹聴しないのだが、昔は今と違って何かと世間の偏見が強かったのかもしれない。
人には触れて欲しくない秘密が一つや二つあるものだ。人と接する際には気をつけねばと思ったものの、今回は偶然なので注意のしようがないのだが。
以上